研究方針
最先端の微細加工技術で作製する、ナノおよびマイクロスケールの超微細な人工構造と光との相互作用によって生じる新たな物理現象の探索と、その光制御への応用を進めています。そのためのレーザー加工技術開発も研究対象とし、光物性物理学に基づいて、「なぜ光でものは壊れるのか」という、レーザーによる光加工の学理を探求するとともに、最先端のレーザー光を駆使した微細三次元構造作製のための新手法の開発も進めています。
また、東京大学光量子科学連携研究機構の一員として、研究室の関わるプロジェクトによって創出された新技術を実社会へと迅速にトランスファーするための新たな仕組み作りにも取り組んでいます。
研究テーマ
人工ナノ構造の光物理学の探求と光制御への応用
現代の社会に不可欠となった半導体チップに搭載されているトランジスタのゲート長は、現在では数10 nmのオーダーにまで微細化が進んでいます。一方、可視光の波長はおよそ380 nm~780 nmです。すなわち我々は、光の波長よりもはるかに小さな構造を、金属や半導体で自在に作製する手法をすでに手にしているといえます。このような光の波長よりも小さな人工ナノ構造は、新たな物理現象発現の場となるとともに、人が設計したナノ構造の「形」で光との相互作用を自在に操作するという、新しい考え方に基づいた光制御が可能となります。我々は、このような人工ナノ構造における新現象の探索とそのメカニズム解明および光源応用を進めています。特に、波長が200 nm以下の真空紫外領域や、周波数1 THz近傍のテラヘルツ波と呼ばれる、制御手法の開発が求められている領域への応用を目指しています。
解説記事
- 非線形メタマテリアルを用いた円偏光の生成と制御
小西邦昭
光学 52(5) 186-191, 2023年5月 - 誘電体ナノメンブレンを用いた真空紫外コヒーレント光発生と円偏光制御
小西邦昭, 五神真
光アライアンス 32(11) 44-48 2021年 - Tunable and nonlinear metamaterials for controlling circular polarization
Kuniaki Konishi, Tetsuo Kan, Makoto Kuwata-Gonokami
Journal of Applied Physics 127, 230902 (2020)
関連する論文
- Finite-Area Membrane Metasurfaces for Enhancing Light-Matter Coupling in Monolayer Transition Metal Dichalcogenides
Ya-Lun Ho, Chee Fai Fong, Yen-Ju Wu, Kuniaki Konishi, Chih-Zong Deng, Jui-Han Fu, Yuichiro K. Kato, Kazuhito Tsukagoshi, Vincent Tung, Chun-Wei Chen
ACS Nano 18, 241173 (2024) - Circularly polarized vacuum ultraviolet coherent light generation using a square lattice photonic crystal nanomembrane
Kuniaki Konishi, Daisuke Akai, Yoshio Mita, Makoto Ishida, Junji Yumoto, Makoto Kuwata-Gonokami
Optica 7, 855 (2020) - Tunable third harmonic generation in the vacuum ultraviolet region using dielectric nanomembranes
Kuniaki Konishi, Daisuke Akai, Yoshio Mita, Makoto Ishida, Junji Yumoto, Makoto Kuwata-Gonokami
APL Photonics 5, 066103 (2020)
selected as Featured Article and highlighted by AIP Scilight
解説動画
プレスリリース
レーザーによるマイクロ三次元構造の創成と電磁波制御への応用
近年のレーザー技術の進歩によって発生が可能になった、高強度かつ高安定な超短パルスレーザーを用いることによって、単に物体の穴あけや切断を行うのみならず、他の方法では作製が困難なミクロンオーダーの微細3次元構造を作製することが可能になってきています。その一方で、フォトンサイエンス研究機構の開発したレーザー光を活用した3Dプリンターは、ボトムアップでミクロンオーダーの微細3次元構造を作製する技術として注目され、レーザー加工と相補的な技術であると言えます。このような先端技術を活用して作製した構造は、ミリ波、テラヘルツ波等の電磁波よりも小さいサイズであるため、適切な構造を作製することによって、新たな電磁波制御のための機能性材料として活用することができます。本研究では、このようなレーザーを用いた3次元構造作製技術の開発を進めると同時に、それを用いた新たな機能性材料の開発も進め、宇宙物理学や、次世代無線技術(Beyond 5G)など、様々な分野への展開を勧めています。
解説記事
- フェムト秒レーザー加工の学理解明に向けた集光プロファイルの精密計測およびシミュレーション手法の開発
櫻井治之、山田涼平、小西邦昭
レーザー加工学会誌 31(1), 3-9, 2024年2月 - フェムト秒レーザー加工によるミリ波・テラヘルツ帯の無反射モスアイ構造の実現
櫻井治之、小西邦昭
OPTRONICS 42(9) 96-100, 2023年9月 - 半導体後工程での超微細深紫外レーザー穴あけ加工
小林洋平、乙津聡夫、櫻井治之、小西邦昭、田丸博晴、坂上和之、谷峻太郎
OPTRONICS 42(1) 60-62, 2023年1月 - 3次元造形技術のテラヘルツ光学素子作製への展開
小西 邦昭, 櫻井治之, 湯本潤司, 五神真
レーザー研究 47(7) 356-360 2019年 - 1次元規制液面型3次元造形装置(RECILS)による樹脂・金属ハイブリッド構造の作製と応用
添田建太郎, 小西邦昭, 湯本潤二
化学工学 84(4) 2020年4月
関連する論文・プレスリリース
〈 フェムト秒レーザーを用いた微細3次元構造の作製 〉
- Broadband laser-processed terahertz moth-eye antireflection structure with a controlled lattice type
Rikuo Koike, Mizuho Matoba, Shotaro Kawano, Haruyuki Sakurai, Kuniaki Konishi, Norikatsu Mio
Applied Optics 63, 7442 (2024) Selected as Editor’s Pick - Laser processing of silicon with GHz burst pumped third harmonics for precise microfabrication
Haruyuki Sakurai and Kuniaki Konishi
Optics Express 31, 40748 (2023) - 2022/1/27
”超短パルスレーザー加工技術で作製した蛾の目構造を世界で初めて電波望遠鏡に実装-宇宙マイクロ波観測装置の感度向上に貢献へ-” - A Large Diameter Millimeter-Wave Low-Pass Filter Made of Alumina with Laser Ablated Anti-Reflection Coating
Ryota Takaku, Qi Wen, Scott Cray, Mark Devlin, Simon Dicker, Shaul Hanany, Takashi Hasebe, Teruhito Iida, Nobuhiko Katayama, Kuniaki Konishi, Makoto Kuwata-Gonokami, Tomtoake Matsumura, Norikatsu Mio, Haruyuki Sakurai, Yuki Sakurai, Ryohei Yamada, Junji Yumoto
Optics Express 29, 41745-41765 (2021) - Broadband, millimeter-wave anti-reflective structures on sapphire ablated with femto-second laser
R. Takaku, S. Hanany, H. Imada, H. Ishino, N. Katayama, K. Komatsu, K. Konishi, M. Kuwata-Gonokami, T. Matsumura, K. Mitsuda, H. Sakurai, Y. Sakurai, Q. Wen, N. Y. Yamasaki, K. Young, J. Yumoto
Journal of Applied Physics 128, 225302 (2020) - Terahertz broadband anti-reflection moth-eye structures fabricated by femtosecond laser processing
Haruyuki Sakurai, Natsuki Nemoto, Kuniaki Konishi, Ryota Takaku, Yuki Sakurai, Nobuhiko Katayama, Tomotake Matsumura, Junji Yumoto, Makoto Kuwata-Gonokami
OSA Continuum 2, 2764 (2019)
Editor’s Pick
〈 3Dプリンターを用いたテラヘルツ制御素子の作製 〉
- Suitability of metallic materials for constructing metal-coated dielectric terahertz waveguides
Yuyuan Huang, Kuniaki Konishi, Momoko Deura, Yusuke Shimoyama, Junji Yumoto, Makoto Kuwata-Gonokami, Yukihiro Shimogaki, Takeshi Momose
Journal of Applied Physics 131, 105106 (2022) - Development of a model for evaluating propagation loss of metal-coated dielectric terahertz waveguides
Yuyuan Huang, Kuniaki Konishi, Momoko Deura, Yusuke Shimoyama, Junji Yumoto, Makoto Kuwata-Gonokami, Yukihiro Shimogaki, Takeshi Momose
Journal of Applied Physics 130, 055104 (2021) - 3D printed 1.1 THz waveguides
W. J. Otter, N. M. Ridler, H. Yasukochi, K. Soeda, K. Konishi, J. Yumoto, M. Kuwata-Gonokami, S. Lucyszyn
Electronics Letters 53, 471 (2017)
レーザー加工の原理解明
~なぜ光でものが壊れるのか~
物質に対して強いレーザー光が当たるとその物質は壊れるという事実は良く知られており、実際にレーザー加工は、現在の産業を支える重要な基盤技術となっています。その一方で、特に超短パルスレーザー光によって物質の破壊現象が生じるメカニズムについては、いまだに明らかになっていない点が数多くあります。物質破壊が生じるほどの高強度パルス光が物質に入射した場合、その光のエネルギーはどのようなプロセスを通じて物質に受け渡されるのか?その受け渡されたエネルギーは、物質内部で電子系、格子系を通じてどのように伝搬し、何をきっかけとして破壊という劇的かつ不可逆な現象を引き起こすのか?これらの問いに答えを見つけるべく、最先端の光制御技術とさまざまな計測手法を開発し、それらを駆使することによって研究を進めています。本研究によって、レーザーによる物質破壊というメカニズムの解明にとどまらず、その知見によってレーザー加工技術のさらなる進化につなげていくことを目指します。
さらに、東京大学光量子科学連携研究機構、文部科学省”光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP”)、TACMIコンソーシアム等の活動と連携して、研究室から創出された新技術を実社会へと迅速にトランスファーするための取り組みも勧めています。
解説記事
- フェムト秒レーザー加工の学理解明に向けた集光プロファイルの精密計測およびシミュレーション手法の開発
櫻井治之、山田涼平、小西邦昭
レーザー加工学会誌 31(1), 3-9, 2024年2月
関連する論文・プレスリリース
- Simulation of nonlinear propagation of femtosecond laser pulses in air for quantitative prediction of the ablation crater shape
Ryohei Yamada, Wataru Komatsubara, Haruyuki Sakurai, Kuniaki Konishi, Norikatsu Mio, Junji Yumoto, and Makoto Kuwata-Gonokami
Optics Express 31, 7363 (2023) - Pulse-to-pulse ultrafast dynamics of highly photoexcited Ge2Sb2Te5 thin films
Masataka Kobayashi, Yusuke Arashida, Kanta Asakawa, Keisuke Kaneshima, Masashi Kuwahara, Kuniaki Konishi, Junji Yumoto, Makoto Kuwata-Gonokami, Jun Takeda, Ikufumi Katayama
Japanese Journal of Applied Physics 62 , 022001 (2023) - 2021/03/29
”たった1つのレーザー加工穴から、数十万点の加工深さビッグデータを取得” - Direct correlation of local fluence to single-pulse ultrashort laser ablated morphology
Haruyuki Sakurai, Kuniaki Konishi, Hiroharu Tamaru, Junji Yumoto, Makoto Kuwata-Gonokami
Communications Materials 2,38 (2021) - Direct writing of optical waveguide in fused silica by fundamental beam of Yb:KGW femtosecond laser
Ryo Imai, Kuniaki Konishi, Junji Yumoto, Makoto Kuwata-Gonokami
OSA Continuum 4, 1,000-1009 (2021) - Effect of damage incubation in the laser grooving of sapphire
Haruyuki Sakurai, Chao He, Kuniaki Konishi, Hiroharu Tamaru, Junji Yumoto, Makoto Kuwata-Gonokami, Arnold Gillner
Journal of Applied Physics 125, 173109 (2019)